前回に引き続き、お芝居についてのお話をいたします。
「うちの子は覚えが悪くって…」
「なかなかセリフを覚えられなくって…」
といった悩みを抱えていらっしゃるお母様は大勢いらっしゃいます。
また、お子さんがセリフを忘れてしまった時に、そのことを責めるお母様もちらほら見受けられます。
セリフをよく覚えている子、完璧にマスターしている子を引き合いに出して「あなたももっとがんばりなさい」と諭している光景も目にしたことがあります。
確かに、セリフを正確に、きちんと覚えて、それを本番でもしっかりと喋ることができるのはとても重要なポイントとなります。
しかし、もっとも大切なことは、その更に先にあります。
セリフを完璧に覚えるだけでは、まだ全然「足りない」のです。
そんなこと、分かってる。
どうせ演技力でしょ?タイトルにもそう買いてあるし…。
そう思われた方、大正解です!
大切なことは暗記力ではなく、演技力です。
これは、子役に限ったことではありません。
大人の役者の世界でも、全く同じことが言えます。
正確に暗記したものを披露するだけならば、役者でなくても誰でも、努力さえ重ねればできます。
しかし、演技となると話は別です。
ただ覚えるだけではない、血のにじむような努力、そして豊かな経験、更に極限まで引き出された感受性、極め付けはその人の天性の才能、これらが揃っていなければ、演技は成立しません。
これはこのままそっくり子役の世界にも当てはめることができます。
セリフが完璧でなくてもオーディションに受かる子というレアケースがあります。
なぜ受かったのか。それは、その子が「役のイメージにピッタリだった」から、もしくは「思わず引き込まれてしまう魅力をもっていた」から、です。
どちらも演技力が物を言っています。
それでは、実際のところ、ただただセリフを覚えるだけでなく、演技力も磨くための練習は、どのように取り組んでいけば良いのでしょうか。
その答えには、いくつかのキーワードがあります。
「対話」そして「想像」それから「アウトプット」などです。
演技するためには想像力が絶対不可欠です。
セリフのあるシーン、その背景、自分の役の感情などを想像できなければなりません。
では想像力はどのように培われていくのでしょうか。
これが「対話」による「アウトプット」で実現します。
例えば、台本を読んだ時に、ただただセリフを読み込ませて覚えさせるなんて練習法をしていませんか?
これではまるで意味が無いです。ただの退屈な作業で、お子さんは飽きてしまいますし、セリフだって「ただの文字の羅列」が頭の中に流れ込んでくるだけで、ちっとも定着しません。
台本を読む時は、必ずその背景やシーンの描写、そして登場人物の感情などについて、お子さんと「対話」してください。
「この時、周りには何があると思う?」
「公園なら、滑り台はあるかな?ジャングルジムは?ブランコは?それで、この子はどこにいると思う?立ってる?座ってる?何してるんだろう」
「この子はどうしてこんなことを言ったのだと思う?どんな気持ちだったのかな」
など、とにかく、思いつく限りの「想像させる」質問を投げかけてあげてください。
この対話により、お子さんは自分の頭で想像したものを言葉にしてアウトプットします。
これが演技力、表現力を培っていく「最初の一歩」になります。
お子さんが想像したことをアウトプットできるようになったら、それをセリフに反映させる練習をしていきましょう。
「じゃあ、悲しくてしかたないって気持ち、今、想像した気持ちになって、もう1回このセリフ、読んでみよっか」
これだけで大きく変わるはずです。
それでも「う~んイマイチなんだよなぁ…」と感じることもあるでしょう。
しかし、何かしらの「変化」があれば、頭ごなしに否定せず、必ずその変化について褒めてあげてください。
その上で
「でも、あと一歩ってかんじなんだよね。なんか、今のだと、悲しさのレベルが…そうだなぁ…晩御飯のおかずに○○の嫌いなグリンピースが出て来ちゃった…ぐらいに感じたな。この時の悲しみってそれよりも大きい?小さい?」
と、再び「対話」によって、お子さんの頭で考えたことをアウトプットさせてあげましょう。
この繰り返しによって、自然と「想像する」力、そして「想像したことを表現する力」が身についていきます。
これは子役にとっては、本当に強大な武器となります。
もちろん、センスや才能は人それぞれですし、得意不得意もあるはずです。
楽しい演技、ふざけた演技が得意な子もいれば、怒った演技や泣く演技が得意な子もいます。
大人に得意不得意があるように、子どもにも得意不得意があるのです。
「対話」によるトレーニングの中で、お子さんの得意不得意を見極めて、ぜひ「得意」を存分に伸ばしてあげましょう。